(64)戦力外通告
大学院生活の中で大学院生仲間が志半ばでドロップアウトする姿は何度も見てきました。経済的な理由やモチベーションの問題、研究室の環境の問題など十人十色な理由で彼らは次の道へと進みました。元々博士進学を考えていたが修士で就職した人などを含めるとそれなりの人数が大学院をドロップアウトしてると言えるかもしれません。
その一方でTwitterを見ていると諦めずにD4、D5まで粘って博士を取ることに成功した方々もいます。D1の手前まで出版論文がゼロだったとき結構精神的にキツかったのでその状況を6年以上耐えて実績につなげるというのは並大抵の精神力ではないことが察せます。実験研究だと長時間の拘束にも耐えている訳なので正直自分には無理です。
しかし、耐えた人間が全員報われないという現実も見つめると今実績が出せずに苦しんでる院生に対して頑張れ/応援しているなどといった無責任な言葉をかけたくはありません。実績を出すために努力以外のファクターが多い世界でそのような無責任な応援は、これまでに十分な努力をしてきた本人を追い詰めるだけでしょう。そもそも研究だけが人間が幸せになる方法ではないはずです、広い視野を持って進路選択が出来るように周囲の人間はサポートすべきだと自分は考えてます。
将棋の世界では26才までにプロになれないと奨励会(養成機関)を強制退会になるといった戦力外通告制度がありますが、一度強く志した世界を諦めるにはこのような外からの圧力がないと難しいのかもしれません。残酷な制度と言われていますが、これは夢破れた天才たちが次の進路を歩むことを暗に肯定してくれているようにも思えます。奨励会員の8割がプロ棋士になれないように、大学院卒の8割は無期雇用のアカデミック研究者にはならない現実を鑑みると、色々な人生を肯定する雰囲気が少しでも広がれば良いなと個人的にいつも思ってます。
2021/03/14