(33)ニセ科学は科学教育の敗北か?
消費生活センターがマクロビの食育講座を企画したことで批判が殺到しているようです。マクロビとは自然派食品を摂取することによって身体が健康になるという科学的根拠の一切ない健康法で、極端な菜食に切り替えることにより栄養バランスが崩れむしろ不健康になるという危険性が指摘されている所謂ニセ科学の一種です。このような情報を科学的な代物かのように公的機関が宣伝することは到底許される行為ではありません。その後、センターは講座を中止して謝罪文を発表したようですが、ことの重大さを認識していない内容であったので更に批判の声があがっています。
我々の身の周りには溢れるほどニセ科学が存在しています。代表的なものとして琉球大名誉教授の比嘉照夫が提唱するEM菌が挙げられます。EM菌はバイ菌が重力波(?)で水質を綺麗にして放射能まで(?)除去するなどという常識的に考えて明らかなニセ科学製品でありますが、環境保全という目的の聞こえの良さや提唱者の権威によって小中学校のプール掃除や河川の水質改善に利用しようという行政レベルにまで食い込んだニセ科学です。他にも電源要らずでマンションの水道管のサビが取れると宣伝するNMRパイプテクター、健康に良いとされる水素水などなど、普通に聞けば怪しいと理解出来るようなバカげた製品があちこちの日常生活に侵食しています。
さて、なぜニセ科学は蔓延するのかということを考えたときに、科学教育の敗北という発想が浮かびます。もし、人々の科学リテラシーが高ければこのようなニセ科学に多くの人々が騙されるはずがないというのは自然な考えです。ニセ科学は多くのモノが小学校中学校で習う理科レベルの知識を以って精査すれば怪しいことを言っているということが明らかです。現在の科学教育が科学の目、すなわち何を以って科学的であるとするかという科学の考え方を養えていないという批判はあって然るべきです。
しかし、この問題は科学教育だけでなく、騙しの手法というものを理解する必要があると思われます。人間の認識は論理ではなく感覚が優先されるという事実がこのニセ科学問題では重要になってくるのではないでしょうか。人間は論理的整合性は取れていなくても感覚的に自然に思われるものであれば違和感なく受け入れるという習性があります。例えば手品では論理を破綻させながらも指先のテクニックや数理原理を利用して動きや手順の部分を自然に見えるようにすることによって不思議な現象を成立させています。詐欺では冷静に考えればありえないような話でもタイミングや話し方を工夫することによって相手を信じ込ませていきます。ニセ科学の伝道師達は表の状態を自然にすることに全力を尽くしてる方々なので、裏の整合性を取ることが専門の本業科学者達とは全く別の土俵に立っている訳です。ニセ科学に騙されない為には科学の方法を知るだけでは不十分でしょう。
ニセ科学の弊害として、最悪の場合命を失うというケースがあります。友人のブログには代替医療に嵌って末期ガンに侵された人間のエピソードが掲載されています。ステージ2の時に代替医療を勧める知人の声を盲信し、現在ステージ4まで進行しているようです。ニセ科学に騙された被害者が加害者となって人の命を奪っていくという最悪の事態が身の回りで起きているということに強い危機意識があります。科学的思考方法だけではなく騙しのテクニック、更にはそのニセ科学自体の危険性について啓蒙していくような理科教育へとシフトしていくことが今の社会に強く必要とされているでしょう。
2019/04/29